日記

ひきこもり中年男性の日常です・・・

反抑圧アプローチの視点から迫る軽度知的障害女性の性産業従事

 

という論文を読んでみました。軽度知的障害女性の性産業従事をテーマにした論文です。

 

以下気になった点の引用

 

知的障害者が性から遠ざけられている現実」

筆者の一人(武子)はかつて知的障害者の性を研究対象としていた。研究途上で明らかになったのは、知的障害者が性から遠ざけられている現実であった。知的障害のある子を持つ母親は、我が子は性的な行為を経験しないと予想しており、それゆえに性行為等の生殖に関わる性教育を不要なものと考えていた。また施設職員は、利用者の性的な行動をどのように捉えていいかわからないとしていた(武子 2013)。施設職員を対象とした質問紙調査では、知的障害がある男性に比較して知的障害がある女性の方が、性的関心が少ないと考えられており、性行為や SNS の利用などについても容認されにくいという傾向が示された(延原・門下ら、印刷中)。その一方、彼女たちの性的な主体性は、周囲の配慮によってなかったことにされてしまいがちである。疎外されやすい知的障害女性の性的主体性の発露が、性産業従事に関わることの中で見られるのではないかと考えたことが、本稿の問題関心の基盤にある。

「性産業以前の場所で受けてきた周辺化・無力化と比較し、それより性産業の方がずっと働きやすい」

しかし、A さんは性産業以前の場所で受けてきた周辺化・無力化と比較し、それより性産業の方がずっと働きやすいことを強調していた。B さんも性産業そのもので受けていた搾取や暴力について語る場面があっても、交際相手から受けた抑圧についての語りの方が多かった。加えて、A さんと B さんの語りから、彼女たちが店や客から評価されていたことがうかがわれた。B さんが[普通に接客をはじめ]られる[自信があった]と語ったように、二人とも客や店を信頼していた。その信頼が、ひいては彼女たちの働く場を主体的にコントロールすることを可能にしていったのではないだろうか。また、A さん、B さんとも共通して、性産業では嫌な客が来ても[NG にできる]、[従業員に電話]できるなど、店から守ってもらえると述べている。先行研究では性産業は暴力を受けやすい職場であると指摘されているが(田中、2016)、今回の調査では暴力を受けたとしてもそれを回避できるシステムがある場合があることが浮かび上がってきた。

「いかに性産業従事の経験を肯定的に語ったとしても、周囲はそれを受け止めず、障害特性か病理あるいはその両方に当事者の経験を回収していく」

知的障害がある女性の性産業従事に関しては、当事者が性産業に対して肯定的な評価をしても、それは彼女に知的障害があるためだという、ある種の〈決めつけ〉ともいうべき言説が大きな影響力を有している。あるいは彼女のトラウマティックな過去の経験が、性産業従事の遠因になっているという、性産業従事と当事者の病理を結びつける言説も存在する。

これらの理解のしかたは、マルクスの「虚偽意識(false consciousness)」を想起させる。ジョーダナ・グリーンブラッド(J.Greenblatt,2018)は、セックスワークを含む倒錯的な性への同意を「虚偽意識」を通して理解することは、意思のある、あるいは望んでいる性的行為と、意思のない、あるいは望んでいない性的行為との区別をなくすことになると批判している。小澤のような見解が支配的になることによって、障害特性上、周囲から、自分の身に起こっていることが被害であると理解できないと認識されている軽度の知的障害がある女性の場合、いかに性産業従事の経験を肯定的に語ったとしても、周囲はそれを受け止めず、障害特性か病理あるいはその両方に当事者の経験を回収していくような水路ができあがってしまうのではないだろうか。そのような弊害を除去するためには、当事者による性産業従事に関する語りを、より丁寧に聞いていくことが必要になると考えられる。

AOP(反抑圧アプローチ)

AOP は、批判的ソーシャルワーク理論の一種と見なされており(児島、2019;栄里、2019;田川、2013)、フェミニズムや反人種主義、マルクス主義ポスト構造主義といった多くの批判理論が切り結ぶまさにその地点に誕生したソーシャルワークのアプローチであるといいうる

AOP は、分析の枠組みとして交差性(=インターセクショナリティ)を用いる。コリンズ(2020=2021)によれば、交差性とは「交差する権力関係が、さまざまな社会にまたがる社会的関係や個人の日常生活にどのように影響を及ぼすのかについて検討する概念」(P. H. Collins,2020=2021)である。当該概念は、人種、ジェンダーなど複数のアイデンティティの要素に対し複数の抑圧が相互に関連することを意味する。また、交差性は女性間格差を浮き彫りにする。それは健常女性と軽度の知的障害がある女性の被る抑圧の違いを示すだけにとどまらない。「軽度の知的障害がある女性の性産業従事ケース」において、人によって性産業従事に至るプロセスも、そこに従事していた際の経験も全く違う。交差性概念は、当事者の置かれたコンテクストの違いによって、抑圧状況が一様でないことを露呈するものでもある。